個人事業主のスーツ代は経費に?給与所得者制度から判断する方法

個人事業主にとって、何が経費として認められるかは重要な問題です。クライアントや知人から頻繁に質問を受けるテーマの一つでしょう。

今回は、「給与所得者の特定支出控除」という制度を手がかりに、経費の可否を検討してみましょう。
具体的に、スーツ代が経費として認められるかどうかを考えます。

この制度は、給与所得者が支払う諸々の費用について、一定の要件を満たせば所得控除を受けられるというものです。
個人事業主には適用されませんが、経費判定の参考にはなるでしょう。

1. 給与所得者の特定支出控除

給与所得者には、給与所得控除として一定の控除が認められています。
実際の納税対象となる金額は、給与総額からその給与所得控除額を差し引いた残りとなります。
例えば、年収600万円の場合、164万円が控除されて436万円が課税対象所得になります。

この給与所得控除は、勤務に伴う経費の概算控除と考えられています。
交通費、書籍代、文具代、衣服代などが該当するでしょう。
つまり、600万円の収入を得るために164万円分の経費を使っているという見なしがなされているのです。

実際にはそれほど経費をかけている人は少ないかもしれませんが、制度上は手厚い控除となっています。
ただし、中には例外的に高額の経費を強いられる人もいます。
遠距離通勤で交通費がかさむ人、学習熱心で書籍代が膨らむ人などです。

そのような方々に対して、「給与所得者の特定支出控除」という制度が設けられています。
これは、一定額を超える特定の支出について、追加の控除を認めるものです。
具体的には給与所得控除額の半分を上回った分について、さらに控除が受けられます。

年収600万円の場合、164万円の半分の82万円を超えた支出分が特定支出控除の対象となります。
月換算すると約6.8万円です。
遠方から新幹線で通勤している方などはこの制度の恩恵を受けられるかもしれません。

国税庁のリンク

この記事をお読みになっている方は既にご存じとは思いますが、国税庁のホームページもご確認ください。

2. 特定支出の具体例

給与所得者が特定支出控除の対象とできる経費には、一定の要件が課されています。
対象となる主な支出項目は次のとおりです。

  • 通勤に係る交通費
  • 業務命令による出張旅費
  • 転勤に伴う移転費用
  • 職務上必要な研修や講習の受講料
  • 業務に役立つ資格の取得費用
  • 単身赴任者が実家へ帰省する際の旅費
  • 勤務遂行上必要な経費(書籍代、服装費、慶弔費など。ただし上限65万円)

これらは給与所得者にとって不可欠な経費とみなされ、一定額を超える分について追加の所得控除が認められることになります。

3. 給与所得者と個人事業主との比較

給与所得者と事業者では、必要経費とみなされるものが必ずしも一致するとは限りません。

例えば、給与所得者の「転居費」や「単身赴任の帰宅旅費」は、会社の都合によって発生する経費です。
しかし個人事業主の場合は、自己の判断によるものとなります。

一方で、共通して経費と考えられる項目も存在します。

  • 通勤に係る交通費
  • 業務上の出張旅費
  • 仕事に役立つ研修や講習の費用
  • 業務に必要な資格の取得費用
  • 業務遂行上必要な書籍代、服装代、交際費など

このうち、個人事業主にとって経費該当性の判断が難しいのは、「資格取得費」と「衣服費」ではないでしょうか。
給与所得者との違いを踏まえた適切な判断が求められます。

4. 本題「スーツ代は経費になる?」

さて、「スーツ代は経費になる?」という問いに対して、みなさまはどのように考えますか?

経緯や実態などによって、一概には判断できないものの、個人事業主にとってスーツ代は経費として認められる可能性はあると考えられます。

このような判断に至る経緯(となり得るもの)としては、給与所得者の制度である「特定支出控除」で、衣服費が必要経費とみなされていることにあります。
個人事業主の必要経費とすることを否定すれば、整合性を欠くことになるでしょう。

もともと給与所得控除には、概算控除の側面だけでなく、事業所得など他の所得との間で公平性を保つ調整機能も期待されています。
つまり、事業者が衣服費を経費に計上できるのであれば、給与所得者も同様の取り扱いを受けるべきだと解釈できます。

ただし、プライベート用と業務用を明確に使い分けていることが前提条件となります。
個人事業主なら経費として計上できますが、一人で構成される法人の場合は別です。
法人としては経費にできず、役員報酬から給与所得者の特定支出控除として控除することになります。

このように、他の税制の取り扱いなどから類推を行うことは、経費の可否を判断するにおいて有効なアプローチだと考えられます。
整合性のある解釈を心がける必要があるでしょう。

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